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徳島県の静かな住宅街に、凜とした美しさが際立つ住まいがありました。今回ご紹介するのは、以前にも「みんなの部屋」に登場していただいたことのある長江菜緒さんの、新しいお宅です。

3年前の取材では賃貸暮らしのなかで描いていた理想のマイホームについて伺いましたが、ついにその夢がかたちに。完成した新居を見せていただきました。


家づくりのはじまり
もともと住んでいたのは、コンクリート打ちっぱなしの賃貸物件。
「無機質な雰囲気が好きで、気に入ってはいたんです。でも、家具が好きなのに置ける量に限りがあることが残念で……。好きな家具をのびのびと置いて楽しめる家がほしい、という思いが、家づくりのスタートでした」

理想は“シンプルな箱”。空間が主張しすぎないからこそ、置くものが引き立ち、心地よく感じられるような住まいをめざして、菜緒さんは動き始めたといいます。

「リビングには、1人掛けのソファを置きたくて。加えて、家族や来客の全員がくつろげるようなスペースづくりをしたいという思いがありました。
それに加えて、津波などの災害にも強い地域で、パン屋さんや花屋さん、本屋さんが近くにある場所がいいなと思っていたら、全部の条件を満たす土地にたまたま出合えたんです」
自然とつながる、シームレスな住まいづくり

家づくりで大切にしたもう一つのテーマが、「自然を感じられる住まい」でした。
「夫が自然の多い地域で育ったこともあり、家を建てるなら自然が身近に感じられる場所にしたいと考えていました」

以前の住まいは1階だったこともあり、外からの視線が気になってカーテンを開けづらく、日差しや風を感じる機会が少なかったそう。
「今回は、外と中が緩やかにつながっていて、自然を感じられる住まいにしたくて。バルコニーとリビングをつなげてもらったり、夫の作業スペースの窓から山が見えるようにしてもらったりと、設計士さんに工夫していただきました」

実際に訪れてみると光や風の流れがとても心地よく、家の中にいながらどこか外にいるような開放感があります。
お気に入りの場所
どこでもくつろげるリビング

住まいづくりの出発点にもなったリビングは、過ごし方の幅が広がる心地よい空間になっています。
「LDKは敷き込みのウールカーペットにしたのですが、これが大正解でした。ウール100%なので夏は湿気を逃してサラッと、冬はぬくぬくと過ごせて本当に快適です」

ソファや椅子に腰掛けるだけでなく、床に寝転んで昼寝をしたり、夜はストレッチやヨガをしたりと、自由なスタイルでカーペットライフを楽しんでいるそう。

また、リビング・ダイニング・キッチンが仕切られていない設計にもこだわりがありました。
「対面キッチンが人気ですが、私はキッチンが空間に自然になじむようにしたいという思いがありました。飾り棚とキッチンが横一列で並ぶように配置したことで、家具や各アイテムとのバランスも良くなったと思います」

リビングのある2階は大きな窓が両サイドに設けられ、風通しのよい空間を生み出しています。

空間全体に意識を向けると「無」の静寂を感じ、ひとつひとつのアイテムに目を向けると、確かに「有る」ことを実感できる──そんな凛とした空気が流れる、美術館のような住まいです。
洗練された、お店のような身支度コーナー

菜緒さんの住まいは、衣類やアクセサリーを飾りながら楽しめる身支度スペースも印象的。以前の賃貸時代からのこだわりが、さらにパワーアップしていました。
「夫婦ともに服が多いので、どこに何があるかパッとわかるようにオープンクローゼットにしました。玄関から見える位置なので、アイテムに合った収納方法を工夫して、生活感が出すぎないように意識しています」
衣類は夫婦の分を1カ所にまとめて収納。そのこだわりについては「暮らしのアイデア編」でもご紹介します。

収納棚は、空間にやわらかくなじみつつ、夫・伯晃さんの600枚以上あるレコードもすっきり収まるように、IKEAのKALLAX(カラックス)を選んだそう。
棚の上には香水やアクセサリーが並び、目でも楽しめるコーナーに。

さらに、お店のような印象を演出しているのが、抜け感のある鉄格子の仕切りです。

「もともとは木枠の提案だったんですが、どうしても鉄格子にしたくてお願いしました。少しサビが出てきたのですが、それがいい味になってきています」

この鉄格子を支えているのは、コンクリートブロックで造作された壁。
ラフな仕上げで白くペイントされていることで、明るい印象に保たれています。
日当たりの良い洗面と浴室

好みのコンクリート素材をベースにしつつ、前回の課題だった“暗さ”を感じさせない工夫が詰まった今回の住まい。なかでも大きく印象が変わったのが、洗面スペースでした。
「以前の賃貸では、洗面所に陽が入らなくて、いつも暗い印象だったんです。だから今回は、朝日で目覚められるような、明るい洗面スペースにしたいと設計士さんに伝えていました」

洗面台は、左官材「デコリエ」を使用したシンプルなデザインで、飽きのこない素材感もお気に入りとのこと。
浴室扉はガラス張りにし、空間を広く見せる工夫も施されています。

洗面の窓には外からの視線を遮る工夫があり、光だけを心地よく取り込めるように。
「夜勤のあと、朝日を浴びながらゆっくり朝風呂に浸かるのが至福の時間になっています」
お気に入りのアイテム
住まいのシンボル的なダイニングチェア

LDKのなかでも、ひときわ存在感を放っていたのがダイニングチェア「PK1 CHAIR」。
「この家を建てるにあたって最初に買った家具で、一番思い入れがあるアイテムです。インテリア全体も、この椅子が似合うように考えました」

実はこの椅子、購入当時にはすでに廃番に。国内ではほとんど流通しておらず、全国のインテリアショップに問い合わせてようやく手に入れたのだそう。
「探した時間も含めて、すごくいい思い出です」
お気に入りの写真集で作ったアート

LDKのディスプレイスペースに飾られていたアートは、旅先で偶然出会った写真集をもとにご自身で額装したものです。
「旅行中、ふらっと立ち寄った本屋さんで出会った写真集がすごく素敵で。自分たちで額装して、家のあちこちに飾っています」

額縁はIKEAのLOMVIKEN(ロムヴィーケン)。細めのフレームが空間になじみ、アートの表情を引き立てていました。
親友からプレゼントされたグラスポット

キャンドルやお香など、香りものはいろいろ集めてきた菜緒さん。
なかでも、今のお気に入りはご友人からプレゼントされたLAN(ラン)のグラスポットです。

「今はサンタマリアノヴェッラのポプリを入れて楽しんでいます。いずれはお香立てとしても使いたいと思っています」
落ち着いた空間のなかで、静かに存在感を放つアイテムです。
気になるところ:壁と床の理想と現実

家中にたくさんのこだわりが詰まった住まいですが、すべてが理想通りにできたわけではないと菜緒さんは話します。
「塗装壁にするのが夢だったんですが、予算的に難しくて……。その分、コンクリートの素材や色合いにはしっかりこだわりました」

また、1階のコンクリート床は冬になると冷たさが気になる点も。
「どうしてもコンクリート床にしたかったので仕方がないのですが、思いのほか冷たくて。冬は暖かいスリッパが欠かせません。2階のLDKはカーペットにしていて、前の家から使い続けているアラジンストーブが活躍。1階と2階の環境をうまく使い分けながら快適に過ごしています」
これからの暮らし

「ここまでは、夫婦ふたりで“好き”を追求してきた住まいづくりでした。でもこれからは家族が増える予定なので、生活のかたちも少しずつ変わっていくと思います」と菜緒さん。

1階にはまだフリースペースが残されていて、将来的に暮らしに合わせた変化ができるよう余白も用意されています。
「今あるインテリアも大切にしながら、家族みんなが心地よく過ごせる空間にしていけたらと思っています」
静けさと美しさに包まれた住まいに、これからどんな“家族の色”が加わっていくのか。変化していく空間のこれからが、とても楽しみになるお宅でした。





