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Photographed by tsubottlee

和歌山県の、とある穏やかな山間を上った先に広がる住宅街の一角に、今回ご紹介するtomomiさんの住まいはあります。

お名前(職業):tomomiさん(言語聴覚士)、夫・あきらさん、お子さん3人
場所:和歌山県
面積:2LDK / 33坪
築年数:リノベ部分:築55年、増築部分:築5年
間取り図:

illustrated by oyumi

もともと家族が暮らしていた住まいを引き継ぐかたちで始まった家づくり。

建築士と相談を重ね、以前の家の良さを活かしつつ、暮らしやすさを高めるための増築を加えました。

家族や友人との時間を楽しめるこの住まいについて、tomomiさんにお話をお聞きしました。



住まいを決めた理由

tomomiさんの住まいは、夫・あきらさんの実家の隣にあった祖父の家をベースに、リノベーションと増築を施したもの

当初はその家を解体して新築を建てる予定だったといいます。

「設計会社をいろいろと調べていて、偶然見つけたthe officeの事務所や施工事例に惹かれたんです。相談した際に、いくつかの選択肢を提案していただきました」

夫婦の好みや暮らしのイメージを丁寧にヒアリングしてもらい、新築とリノベーションの2つのプランを提示してもらったtomomiさん。

アンティーク家具などの古いものが好きというご夫婦にとって、リノベーション案はとても魅力的で、即決だったそうです。

さらに、祖父の家は5人家族で住むには少し手狭だったため、隣の土地を活用して増築もすることにしたそう。

リビングやサニタリールーム、子ども部屋が新たに増築され、既存部分と一体化するように設計されています。

以前の住まいの歴史を感じさせる壁や天井などもできるだけ残され、例えば手書きの「墨出し」の跡なども、味わいのある要素としてそのまま活かされています。

お気に入りの場所

お城のような台所

住まいづくりにおいて、tomomiさんがとくに力を入れたのが台所スペース

「とにかく台所が好き」と話すtomomiさんは、家を建てる話が出る前から、雑誌やSNSで情報収集を重ねていたそうです。

「建築士の方と一緒に理想を形にしていき、完成した台所は私のお城とも言える空間です」

特にこだわったのが、家事動線と収納の工夫が凝らされた造作家具です。

「整理整頓が得意ではないので、オープンな状態でも様になるような見せる収納にしました。洗って片付けるまでをスムーズに行えるよう、足元にも収納スペースをつくってもらっています」

さらにキッチン横には、使い勝手のいいパントリーも。

施工中に建築士の方から提案され、そのまま活かすことにした土壁がいい味を出しています。

2つの窓も特徴的な要素。外に面した窓は、美しい借景を楽しめるように設計されています。

「景色がすごくいい、と建築士の方たちが下見に来たときに言ってくださって。“絵を飾る額縁みたいに”と、この窓を提案してくださいました」

もう一方の室内窓からは、リビング側の家族の様子が見えます

「私は台所にいる時間が長いので、子どもたちの様子が見えたり声をかけられたりするのがうれしいですね」

室内外を緩くつなぐ土間玄関

土間玄関は、台所やリビング、寝室などへとつながる中継地点。

外と内をシームレスにつなぐ設計で、あえて区切りを曖昧にしているのも特徴です。

「外から帰ってきても、まだ外にいるような余韻が残る空間なんです。家に来てくれた人からも“どこまでが玄関なの?”と聞かれたりします」

こうした印象を強くしているのが、壁の質感。あきらさんの希望もあり、「掻き落とし仕上げ」という左官仕上げを採用しています。

無骨さと柔らかさが共存するような雰囲気が、玄関に心地よい曖昧さを生んでいるのが印象的です。

ちなみにこの室内窓について、あきらさんにはちょっとした夢がありました。

「友人が遊びに来たとき、コーヒースタンドのようにこの窓からコーヒーをサーブできたらなって」

キッチンのテーブル下の壁も同じ仕様になっており、細部にも遊び心が感じられます。

建築士こだわりの造作建具

この住まいで目を引くのが、デザイン性の高い建具の数々。

引き戸やガラス戸などはすべて、建築士がこの家の意匠や暮らし方に合わせて造作したものです。

「引き戸やガラス戸など、一つひとつがお気に入りです。建築士の方が留め具までこだわって選んでくださいました」

玄関からキッチンにかけてのガラス戸は、tomomiさんの「お店のような扉をどこかに取り入れたい」という希望をもとに提案されたもの。

あきらさんが友人を迎えることも多いこの家では、来客を迎え入れる“お店の入口”のようにも活用されています。

一方、玄関からリビングにかけてのガラス戸は、外からの視線を遮るタイプに。

普段は開けて使っているそうですが、必要に応じて使い分けられます。

「夫がキッチンで夜遅くまで友人と飲んでいるときは、戸を閉めて声や気配を遮断できるようにしています。その間、私と子どもたちはリビングでゆっくり過ごせるので助かっています」

階段脇には、一見すると扉とは気づかないような仕上げのドアも。

「ここはトイレへの扉になっていて、SNSでも褒めてもらうことが多い場所です。木の色合いが空間に馴染んでいて、私もとても気に入っています」

お気に入りのアイテム

玄関を照らす真鍮の照明

玄関スペースでまず目を引くのは、美しい真鍮の照明

new light potteryの「call(brass)」というアイテムです。

「夫が一目惚れして、奈良まで実物を見に行って決めたものです。とても人気の照明で、家が完成してから半年ほど待って、ようやく取り付けることができました」

メイン照明に合わせて取り付けられた他の照明器具も、建具と同じく建築士によるオリジナルのデザイン

豆電球をカバーする金属の質感など、空間全体の統一感を意識して仕上げられています。

リビングのインテリアのベースとなったサイドボード

リビングで目を引くのが、イギリスのアンティーク家具ブランド「William Lawrence」のサイドボード

温もりある木の色味や美しいディテールが印象的です。

「家を建てるときに、どこかに大きめのサイドボードを置きたいと夫婦で話していて、いろんなお店を見て回りました。最終的に京都の『70B』でお手頃な価格のものを見つけて、即決でした」

タイミングとしては少し早めの購入だったため、工事中から現場に置かれていたそう。

しかし、そのおかげで設計段階から家具に合わせた寸法決めや仕様の調整ができたといいます。

収納力にも優れていて、掃除道具や子どもたちのゲームなどが収められています。

上部はディスプレイスペースとしても活用されていて、ご夫婦で季節や気分に合わせて楽しんでいるそうです。

どきどきしながら海外サイトで購入した時計

サイドボード上のディスプレイの中でも、特に愛着があるのが「KARLSSON」のフリップ式時計。当時は海外サイトでしか購入できなかったそう。

「本当に届くのか、どきどきしながら注文した思い出があります。壁掛けにもできるんですが、我が家ではあちこち移動させて使いたいので、置いて楽しんでいます」

経年変化を楽しめるオイルバーナー

ダイニング横のディスプレイスペースには、Aesopのブラスオイルバーナーが。

キッチンでの時間を楽しむときに使っているそうです。

「これは夫がずっと欲しかったもので、ある日いきなり買ってきました。私も真鍮の風合いや経年変化が好きなので、お気に入りです」

使い始めはキラキラと輝くゴールドでしたが、家具が経年変化するのと同じように、少しずつ落ち着いた色に変化しています。

「シミもありますが、それも使い込んだ味だと思っています。むしろ、そうやって愛着が湧いていくのがいいですね」

気になるところ:家族の成長に合わせて、部屋をどう使うか

自由度の高い設計で仕上げられたtomomiさんの住まいですが、暮らしの変化に応じた課題もあります。

「家を建てた当時はまだ子どもが小さかったので、ある程度自由に使える空間にしていました。でも住み始めて5年が経ち、そろそろ各部屋の使い方についても考える必要が出てきています

子ども部屋は可動式の家具で仕切る前提になっており、使い方は子ども自身に委ねているとのこと。

一方、夫婦の寝室として使っている和室については、今も模索中だそうです。

これからの暮らし

ライフステージの変化とともに、住まいも少しずつ変化していくもの。

tomomiさんは、そのプロセスを前向きに捉えています。

「子どもの進級や進学に合わせて、暮らし方も変わっていくと思っています。でも、いまはまだ、どういうふうに暮らしていくかが明確には定まっていない状態です」

「まだ手をつけられていない場所もたくさんあるので、これから家族にとってベストなかたちに少しずつ整えていきたいです。悩みながら考えていくのも楽しみのひとつですね」

家族の記憶や歴史を受け継ぎながら生まれ変わったこの住まいは、これからも暮らしとともに少しずつ変わっていくはず。

そんな変化の足跡すらも、愛おしく感じられる空間でした。

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