Photographed by Shoya Kitano
コンクリ打ちっぱなしの外壁に均一に並んだ窓。スタイリッシュな雰囲気と無機質さが同居するおしゃれ物件が、今回の取材の舞台です。
部屋番号を打ち込みインターホンを鳴らすと、わざわざ家主さんが、外までお出迎えに。案内されるがままお部屋へお邪魔すると、目に飛び込んできたのは、建物の外観とは真逆の、カラフルポップな1Rでした。
彩豊かなお部屋の中で特に目を引くのは、赤青黄の“3色”。そして今回取材させていただくこのお部屋の家主、MasashiさんのインスタIDもまた@_sanshoku_roomなのです。



この部屋に入ったときに真っ先に感じたのは“ワクワク”。子どもの頃、誕生日プレゼントを買ってもらいにおもちゃ屋へ行ったときの、あの高揚感を思い出しました。
それもそのはず。この部屋にはレゴや積み木などの知育玩具が、インテリアとして数多く置かれています。その理由を、「子どもの頃の感性や想像力を忘れたくなくて」と語るMasashiさん。そんな遊び心でつくり上げた部屋の魅力を、さっそく紐解いていきましょう。


この場所に決めた理由
Masashiさんが暮らす都内某所は、一人暮らしに人気の場所ではなく、むしろ一人暮らしでなぜここに?という疑問を感じるエリア。駅周辺が飲食店でにぎわっているわけでもなければ、近くに大きな商店街もない。そこでまずは“この場所に部屋を借りたワケ”について聞いてみました。
正直、この場所には縁もゆかりもないんです。この場所に部屋を借りた理由はただ1つ。“この物件があったから”なんです(Masashiさん)

この建物は、Masashiさんが尊敬する建築家が設計した、いわゆるデザイナーズ物件。つまりMasashiさんは、ほかのどんな条件よりも、“憧れの建築家が設計した部屋に住む”という理想を貫き、この物件を借りたというワケです。
そんなMasashiさんは関西のご出身で、今住んでいる部屋は上京してから2件目の物件。ここに引っ越してくるまでは北千住の格安賃貸で暮らし、部屋もここまでつくり込んではいなかったと、当時を振り返ります。
北千住に暮らしていた頃はお金がなかったので貯金に専念し、将来、好きな部屋に引っ越そうと考えていました。そんなとき、この物件の空きが出たと知り内見へ。憧れの建築家が設計した建物だったのに加え、希望条件もすべて満たしていたので、内見をした翌日には契約を決めました(Masashiさん)

北千住に住んでいた頃のMasashiさんのお部屋(photo by Masashi)

現在のMasashiさんのお部屋
あまりの決断の早さに面食らいながら、筆者の心には一つの心配が。それは家賃問題。このお部屋の家賃は100,000円と、一人暮らしにしてはお高めな金額です。以前までの格安賃貸から、家賃も跳ね上がったのでは?と聞くと
正直、家賃に関してはかなり悩みました。一人暮らしで、家賃100,000円はさすがに高いじゃないですか(笑)。でも2週間もしない内に空きが埋まってしまう人気物件なので、今を逃したらしばらくチャンスは巡ってこないと思いました。だから家賃や暮らしやすさは二の次で入居を決めたんです(Masashiさん)
理想のためには、妥協も我慢も絶対しない。Masashiさんのそんな一面が垣間見えたところで、話を部屋のお気に入りスポットへ移します。この部屋のコンセプト、”3色”の原点についてもお話を伺いました。
お気に入りの場所
人と人を仕切らない、曲線形がポイントのダイニング

お気に入りの場所としてまず上げてくれたのが、テーブル周り。楕円形のダイニングテーブルを、カラフルなチェアたちが囲みます。ご飯を食べたりくつろいだり、Masashiさんが1日の中で多くの時間を過ごすのが、この空間なのだそう。
白いキャンバスに絵の具を垂らしたみたいに、白のテーブルを色とりどりの椅子で囲んでみました。引っ越してきてから一番最初に完成したエリアなので、ここを基準に部屋全体のコーディネートを考えています。この部屋の基点でもあり、象徴的な場所でもあるんです(Masashiさん)

話を伺いながら気になったのが、インテリアの形。卵型のテーブルに流線系のチェアと、角ばった家具が一切使われていないのです。
友だちを部屋に呼ぶことが多いので、人と人の間をきっちり仕切らず、全員が分け隔てなくゆるくつながれるよう、曲線形のインテリアで統一させました。角ばったテーブルは使える人数や席の位置が固定されてしまうので、なるべく多くの人が囲んで使える空間を意識しています(Masashiさん)
コーヒーが趣味のMasashiさんは、友人たちとこのテーブルを囲んで、よくコーヒーを飲むのだそう。この日も取材班に挽きたてのコーヒーを振る舞ってくれましたが、その話はまたあとで。
そして、ダイニングテーブルを見て気になるのが、やはり赤青黄の配色。北千住に暮らしていた頃とは打って変わり、なぜこのお部屋で、こんなにカラフルな部屋づくりを始めたのだろうか。
そこで今の部屋づくりのきっかけについて質問すると、「ちょっとニッチな話になるんですけど…」と前置きをし、その原点を教えてくれました。

学生時代からコーヒーが大好きで、よくカフェ巡りをしていました。おしゃれなカフェやお店を巡っていると、次第にその空間や建物自体に関心が向くようになったんです。それ以来、建築やデザインについて調べ始め、中でも感銘を受けたのがBAUHAUS(バウハウス)でした(Masashiさん)
BAUHAUSとは1919年にドイツのワイマールに設立されたデザイン学校、また、そこから生まれたデザイン潮流のこと。赤青黄の3原色をベースに、無駄を削ぎ、機能美を追求したデザインは後世に多大な影響を与えています。そしてMasashiさんも、そのビビッドな色使いとデザインに心を奪われた一人でした。

BAUHAUSの流れを汲んだ建築に、オランダのシュレーダー邸があります。赤青黄の3原色を住居に取り込むという発想に驚かされ、自分の部屋でもこれを再現したいとずっと感じていました。しかし北千住の賃貸では、広さも足りず難しい。そんなとき自分の理想とする物件と出合ったことで、3色の部屋づくりを始めようと思いました(Masashiさん)
ドイツに始まり、脈々と受け継がれてきた美学は、北千住を経由してこのお部屋へ。再現したいと心に秘めていた思いが、理想の物件と出合ったことで爆発し、“3色ルーム”が誕生したのです。
お気に入りのアイテム
完成まではあと一色。誕生日にもらったブランケット
3色ルームのきっかけについてお話を伺ったので、次はお気に入りアイテムの話題に。まず教えてくれたのが、2枚のブランケットでした。

これらはどちらも、友人が誕生日プレゼントにくれたIKEAのものだそう。
ソファ周辺はとにかくリラックスしたい空間なので、なるべく肌触りがいいものを置くようにしています。このブランケットも肌触りがソフトなのが気に入っています(Masashiさん)

肌触りもさることながら、こんなところにも青と黄色が。しかしこれらのブランケットは、友人からの贈りもの。ということは……?
この部屋に合うように、わざわざ青と黄色をチョイスしてくれたんです。友人たちからも完全に、“3色の人”として認識されていますね(Masashiさん)
プロ仕様のコーヒーセット

お気に入りアイテムの二つ目として紹介してくれたのが、愛用のコーヒーセット。「TIMEMORE(タイムモア)」のコーヒーミルに「珈琲考具」のドリップポット、ドリッパーとカラフェはどちらも「ブルーボトルコーヒー」のものだ。

あまり聞きなれないブランドもちらほらあり、こういったコーヒー関連の道具は、どうやって探しているのか聞いてみました。
カフェやコーヒーショップに行ったとき、直接、店員さんやバリスタさんに聞いています。結局、プロが使っている道具を教えてもらうのが、おいしいコーヒーを入れる一番の近道なんですよね(Masashiさん)
変に意固地にならず、知らないことをスッと質問できる姿勢がうらやましい。
撮影中もカメラマンの写真の撮り方を、興味津々で見つめるMasashiさん。知らないことや興味のあることを、純粋かつ無邪気に学ぼうとする様子は、子どもさながら。
取材班のためにコーヒーを入れてくれるMasashiさんの姿も、なんだが工作を楽しんでいるようにも見えてきます。

コーヒーは浅煎り一択。お湯の温度は89度がこだわり


取材班のために淹れてくれたコーヒー。コーヒーセットを会社に持っていき、同僚に振る舞ったこともあるのだとか
考え、手を動かす。アナログなカレンダー

「これ、お気に入りのカレンダーなんですけど」とMasashiさんに紹介されて初めて、これカレンダーだったんだ、と気づく。あまりにポップな見た目でわからなかったけれど、これは「Ring-A-Date パーペチュアルカレンダー」という、れっきとしたカレンダーです。
構造はいたってシンプルで、その月日と曜日の突起にリングをはめるだけ。プラスチック製なので、壊れなければ半永久的に使えるのだそう。
毎日リングを移動させる必要があるので、手間はかかりますが、デザインがとてもかわいいんですよね(Masashiさん)
確かにめちゃくちゃかわいい……。
しかし毎日、日付を変えないといけない煩わしさは見逃せない。そこで、“あえて手間のかかるカレンダーを使うメリット”をMasashiさんにプレゼンしていただきました。

こうして日頃から少しでも頭を使い、手を動かすようにすることで、“ものづくり”そのものに、前向きな姿勢で取り組めるんです。僕は空間デザイン会社で営業の仕事をしていますが、会議資料や先方への提案資料をつくるのにも、クリエイティブな気持ちは必要不可欠。こうした習慣を続けることで、仕事の資料づくりなどにも、嫌々ではなく、積極的に取り組めるようになりました!(Masashiさん)
なるほど……。行動はいずれ習慣になり、習慣はいずれ性格になる。こうした小さなクリエイティブの積み重ねが、この部屋を形づくったのか…なんて心を動かされたその瞬間、Masashiさんの口からこんな発言が。
まぁ、出社がメインで朝は忙しいので、平日はほとんど動かさないんですけどね(笑)(Masashiさん)
これからの暮らし
すでに完成系にも思える、Masashiさんの部屋。これ以上発展の余地があるのか?と思いながらも、これからの暮らしや将来について伺ってみました。
実は今、自分のインテリア雑貨をつくれないかと計画しています。僕が影響を受けたBAUHAUSのデザインと、日本の伝統工芸を組み合わせたプロダクトを制作したいんです(Masashiさん)
インプットの次はアウトプット。Masashiさんが蓄えてきた知識や意欲を、形にしたいと思うのはごく自然なことかもしれませんが、一つ気になるのは“日本の文化”という点です。

BAUHAUSの考えを、ただプロダクトアウトするのはつまらないかなと。せっかく日本に産まれたのだから、和のテイストと組み合わせて、何か新しいものをつくり出したいんです。そうして、自分でつくった好きなものに囲まれて生活できたら、これまで以上に暮らしが楽しくなるはずです(Masashiさん)
ものづくりに影響を受けできあがったこの部屋から、新たなものづくりが始まる予感。次は自分で何かをつくってみたいと楽しそうに語るMasashiさんの背後には、“こんなもの”が見えました。

しょうもなくて、わざわざ話すことでもないんですけど(笑)。DIYのときに出たカッティングシートの切れ端を、ルーズリーフに貼ってみたらなんかいいなと……
この無邪気さと遊び心が、Masashiさんの人柄そのものです。
“子ども心を忘れない大人”がつくったこの空間。そんなMasashiさんが、この先さらに成長し、どんな部屋をつくっていくのか、そしてどんなものを生み出すのか。
我々の興味もまた、尽きないのです。





